名古屋直観記 (一)
名古屋の方言の中で、初めて旅から来た人にも大体それと見当のつくものと、 通訳付でなければてんで要領の得ないものとがある。
- イリャース (御出でになります 又は いらっしゃいます)
- チョコット 又は チョビット (
一寸 又は 少し) - オキャーセ (およしなさい)
- ワシントォ (私ども)
- ソウキャーモ (そうですか)
- ナンダエモ (なんですか)
- アノナモ 又は アノヨー (あのねー)
- エーヨーニ (よろしいように)
などはその前者であり、
- イコミャーカ (行きましょう)
- オソギャー (恐ろしい)
- オゾイ (お気の毒)
- ウザルゼェモ 又は メザルゼェモ (叱られる)
- ゴッサン (御新造さん)
- エットカメ 又は ヤットカメ (永い間)
などはその後者である。
そして、感じからいうと、語尾に
「ヤース」、
「ヤーセ」、
「何々ラッセル」
などの付いたものは悪い感じのしない方であり、
「ナモ」、
「ダエモ」
などの付いたものは素朴で幾分
一日、私は好生館に行くとき、
江川町付近で人に道を尋ねたことがある。
と、
「ここをいきやーして、どーんと突きあたったら、北の方へ御出でやーせ」
と教えてくれた。
私はこの
「どーんと突き当る」
といったその調子が何かしらインプレッシィブで
宿屋や飲食店の店の
湯屋や床屋などの人だかりするところに行って、 地の人同志の話を聴いてると、 アクセントの具合が、ちょうど支那語のようであることを発見する。 特に女同志の会話において然るを感ずる。 名古屋と支那! この両者に如何なる因縁があるか。 一足踏み込んで調べてみたら、さぞかし面白い結論が得られようかもしれない。 或いは水泡に帰するかもしれない。
〔大正9年9月6日 『新愛知』 「緩急車」欄〕