社会主義者の一模型 (上)
先日私と共に瀧本博士のマルキシアン社会主義論を反駁したU氏。
マルクスの唯物史観が、彼の資本論の中に論述してあるなどと
三千頁に
彼の資本論の末尾には
洵 に、 「現実の王国より理想の天地へ驀進しなければならぬ」 という有名なる文句をもって論結せられている
と書き立て、得々然たるU氏。
このU氏が、近日、マルクスの浅薄誤謬を発見して遂にマルクスを捨てて、
新主義を創立せられたる由を、或る筋より私は
私は、 その変説のあまりに早いことに最初は驚いた。 而して暫く熟考の後、 U氏のこの変説は当然あるべきものだと了解した。
いかに、ニイチェが
主張を固守するために火で焼かれるような馬鹿は俺はしない。 主張の内容はそれ程の値を持つものではないかもしれないから。 しかし主張を宣言したり、主張を変更するために俺を火で焼くというのなら、 俺は甘んじて焼かれよう。
と云った言葉があるにしても、
マルクスの学説について前に少し二三の例を挙げたような、
とてつもなき誤解をして居らるる氏が
数十年にわたる潜心熟慮の間においてマルクスが仕組み立てた、
しかしながら、
U氏の論説の書いてある新聞の切り抜きを今再び読んで見た私は、
U氏の変説の不可解の謎が、
〔大正10年4月27日 『新愛知』 「緩急車」欄〕