三年計画の宗教法

制定に着手

文部省では粟屋あわや宗教局長の就任を機として、 近く三年計画で宗教法の制定に着手することになっている。 中山のおみき婆さんは勿論、 綾部の大本教の出口お直をはじめ、 穏田の神様、 巣鴨の行者あるいは大霊道等、 宗教としてその筋に認められていないもので宗教らしい行動を為す者が雨後のたけのこのように輩出する大正の今日、 当局の取締は依然として明治十七年太政官が布達した僅か五箇条の御達おたっしっている。 明治三十何年かに内務省から宗教法案を議会に提出したことはあるが、 院外の反対運動が猛烈だったので、 貴族院で握り潰してしまって、 荏苒じんぜん今日に至ったもので、 各宗に管長を置くとか、 宗制規則を制定して内務省の認定を受けるとかいう極めて大雑駁な布達では、 今日の複雑な宗教界を取締るに不便この上もない。

すでに予算も今年度八千四百円取ってあるから、 第一着手として課内に四人の嘱託を置き、 仏教キリスト教神道三宗教の制度や現状を調査する。 神道は明治以来で沿革も浅く、 調査も比較的楽だが、 仏教五十余派はそれぞれ沿革と事情を異にしているので困難だ。 宗派と寺院、寺院と僧侶、檀信徒と宗派財産、それらの関係や各派の内部組織に至るまで徳川時代からの沿革を調べる。 キリスト教は現在日本にあるキリスト教はもちろん、外国のものについても研究しなければならぬ。 この方は目下ドイツにある菊池書記官が調べることになっている。 要するに宗教法は議論では出来ないと粟屋局長は語ったが、 同案は信仰の内容に触れざる方針で、 自治的にして正しいものには相当便宜を与え、 人心を惑わす宗教らしい徒輩には非常な痛手になるという。 ちなみに四人の嘱託は近く全部発表するはずである。 (東京)

〔大正10年5月2日 『新愛知』 7面記事〕

目次へ戻る