月下氷人 (二)
系図紛乱の話
種々の親族姦を仏が戒めた事
因縁は切っても切れず自分が殺した女と副遂げた事
仏教に親族姦を厳に戒めた事は律蔵に見え、これに対する地獄の刑罰もなかなか怖ろしく書き備え居る。
例せば
「大毘婆娑論」
巻百十九に、
「畜生がその父母を殺さば人と同じく無間地獄に落つべきや」
という難問に答えて、
「
西洋でもフランスのアンリ・エチアンが1566年公にした
「アポロジー・プー・エロドト」
第十章に、
当時欧州貴族が親族姦夥しく行うたのを責めた終わりに、犬が自分の子と交わらざりし例と、知らずに自分の子と交わった母馬がそれと知った後、数日絶食して自滅した事を引いて、人を以て畜生に
元魏訳 「正法念処経」 十三には
或は酒に酔い、或は欲盛んにて姉や妹に淫した者は大焦熱地獄の
髪愧烏処 に生じ、熱炎銅炉で消洋 けては復 た生き還ること幾度となく、それから鉄砧 に置いて鉄槌 で打たれ、打てば死に槌を挙ぐれば生きる。 それから鼓中に置いて、獄卒が鼓を打って畏 しき声を出すと罪人の心臓破れ散り、幾度となく生き死にする。 ようやく地獄を脱して人に生まれても常に物に驚きやすく、無闇に官人に横枉繋縛 るを畏れ、寿命きわめて短く、心驚いて安からず。
とあるから、今日どこかの国の人民が無闇と官人を畏るるのは前生に姉妹姦をやった者が多いのかもしれぬ。 次に、
人有り、斎会中悪邪法を見て姉妹と行欲する者は大焦熱獄の
悲苦吼処 に落ち、獄卒に熱炎鉄杵で擣 き爛 らされ、次に鉄地に入り熱炎鉄を踏み、大苦悩を受くるうち、むこうに寂静 樹林 に衆鳥鳴き遊ぶを望み、彼処で休もうと林中に入る。 その時衆鳥たちまち千頭の大毒龍となり、罪人を食い殺してはまた活かす事幾度というを知らず。 ようやく逃れて清水の池に入ると、たちまち大火坑となって極めて苦しむ。 後、人に生まれても貧究多病、人に使われ、また巷に乞食し、身体矮短。
とある。
日本には古来無いが、外国には
『不二』 編輯者曰く
本稿はこの二回分数頁のほか、三回四回にわたりてなお数十頁ある一大雄篇なれども、前号に掲出せし第一回の記事に対し、当大阪府警察部は 風俗壊乱の記事 すなわち新聞法違反の犯罪行為と認めて検事局に告発ありたるにつき、 累を南方先生に及びしを深く謝するとともに 続稿の掲載を中止す。
〔大正2年11月15日 『不二』 第4号 9頁〕