高潮に達した宗教座談会

「宣伝に碌なものなし」が議論の中心となり

29日夜、 中央食堂における宗教藝術談話会は、 濱野眞氏の 「詩人シェレー」 の評論ののち、 小林橘川氏の 「思想宣伝罵倒論」 に入った。 氏は、 (一) 既成宗派の無自覚なる伝統的宣伝を排斥し、 (二) それにあきたらずして起れる自覚的宣伝、 例えば日蓮主義、 大乗主義などの宗教思想統一運動の無意義を排斥し、 古来の宗祖は宣伝せんがために宣伝せるものにあらず、 とて事実を挙げて、 自覚的宣伝の態度を難じた。

世間の宗教改造論者が改造すべき宗教の何たるやを解せずして改造を叫ぶは笑うべきことで、 古来宗教的改革を成就したる偉人が思想的苦悶修練の真面目なるを挙げて、 今の改造論者が大乗を知らず、 仏教を知らずして改造論を叫ぶの不真面目を痛論した。

さらに進んで氏一流の大乗精神の解釈説明を試みて、 「極楽世界」同人の態度のかえって大乗精神にそむくにあらざるやを指摘した。 これに対して井箆節三、 鵜飼桂六、 葉山嘉樹諸氏の質問、反駁ありて、 小林氏との間に激論を交換し、 長野浪山氏もまた 「宣伝に碌なものなし」 との所感をべ、 その他、 数氏の所感を陳べて午後十時半散会した。 近来になき高潮に達したる談話会であった。

〔大正10年5月31日 『名古屋新聞愛知縣附録』 1面〕

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