ハンガー、サンガー、ベッガー
太刀生
御飯の食べられない貧乏状態を飢餓というのです。ハンガーを正しく日本字に当てはめると飯餓です。
サンガー夫人は産児制限で有名な夫人ですが、今度日本の上陸を禁止されるので、近頃日本でも有名になっています。サンガー夫人は産児制限論者ですから、日本字に当てはめて産餓ではどんなもんです。
飯餓のとなりは、産餓です。然るに日本では昔から貧乏人の子沢山と申しまして、飯餓階級はなかなか産餓どころか、多産多子のために、かえって飯餓の度を加えるという状態です。かくして飯餓は産餓とならずして、かえって乞食に堕ちて行きます。
ハンガー(飯餓)、サンガー(産餓)、ベッガー(乞食)、いずれにしても結構なものではありません。
サンガー夫人が日本の上陸を政府で禁止しようと、しまいが、サンガー夫人の思想が日本人の間に失われるものでもありません。知多郡の旭村などは、サンガー夫人の宣伝を待たずして、昔から産児制限を行っているので、有名な村です。
旭村では学校長も、村長も、有力者も、代々、昔から秘密のサンガー論者だそうです。
ハンガーからサンガーへ行くか、然らざればハンガーからベッガーに行くか、二つの道が貧乏なる日本人の前に開けています。
希くば、飯餓のない国にしたいものです。すべての人類の罪悪は飯餓にあるのですから。
〔大正11年2月26日 『名古屋新聞』 「別天地」欄〕